クレイジーホース・ パリ 夜の宝石たち

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早稲田松竹にて 2012年12月8日から12月14日まで上映

 

2011年10月に、日本未公開作8作品を含む36作品が一挙回顧上映されたことが記憶に新しい、
フレデリック・ワイズマン監督の作品。

最初にいうと、僕はワイズマン監督が大好きだ。

1930年生まれのワイズマン監督は今年で85歳。
37歳での遅いデビューから1年に一本ペースで監督している事実もすごいが、経歴もすごい。
イェール大学大学院卒業後、弁護士として活躍、その後、軍隊に入隊勤務、除隊。
それから映画ドキュメンタリーと出会い、
自身初のドキュメンタリー監督作『チチカット・フォーリーズ』(67)でデビュー。
その精神病院の内幕を赤裸裸に撮影した内容から、
合衆国裁判所の判断により上映禁止(1991年に公開許される)とされ、
センセーショナルな賛否を巻き起こす。
しかし、権力に迎合しない姿勢、弁護士出身の強みを生かした論理的な作家性が、
一作品ごとに熱狂的なファンを生み出し、現在にいたっている。
その積み重ねも素晴らしい。

個人的にも、NYで映画を勉強していた時、ドキュメンタリー製作の授業で、
アメリカ人の生徒たちと一緒にワイズマン監督の作品を観るという僥倖に恵まれたことがある。
NYの友人たちは、西海岸の商業的なハリウッドに対して、
東海岸はインディペンデント映画、なかでも、
ドキュメンタリーといえばワイズマン監督という強烈な自負があるらしく、
監督に対して敬愛の念をもっている様子が印象深かった。

この作品は『クレイジーホース』は、ヴェネチア映画祭でも上映され、
世界的にも注目されている話題作だった。

映画の題名になっている『クレイジーホース』は、
「ムーランルージュ」「リド」と、パリにある3大キャバレーの一つとして、世界的にも有名なお店。
シャンゼリゼ通りのルイ・ヴィトン本店から、アルマ広場に向かって歩いていくと見えてくる。

個人的にも、パリでアートヒストリーの勉強をしている時、お店の前には何度も通った。
当時は、貧乏学生の哀しさで、一度もお店に入ることはなかったけれど、
お店入口の赤の色合いが鮮烈な印象を与えていたことを思いだした。
映画でも、その印象深いお店の外観が撮影されていた。

さて、映画は、その『クレイジーホース』の舞台に、
演出家、ダンサー、美術部などショーを生み出す人々の様子を、
淡々と明快に論理的に、方程式を解くように見せていく作品だ。
今回も、デビュー作から続く、ナレーション無し、インタビュー無し、音楽無し、
出演者を説明するテロップや字幕も無しという、極めて独自のスタイルが当然のように踏襲され、
その圧倒的に安定した語り口は、もう観ているだけで大満足だった。
僕は、ワイズマン監督の作品を観れるだけで大満足だから、
礼讃する言葉しか思いつかない。

ワイズマン監督は、舞台造りの内幕を描いた作品として、
近年では『BALLETアメリカン・バレエ・シアターの世界』や『パリ・オペラ座のすべて』などの作品を、
監督しているので、映画のタイトルにピンとくるようだったら、
『クレイジーホース』も観て、後悔することはないと思う。

最後に、昨年の回顧上映では、フレデリックワイズマン監督が待望の来日を果たしたので、
トークショーに参加し、ご本人の姿を拝見することができた。
スターウォーズのヨーダを彷彿とさせる哲人のようなたたずまい、
存在するだけで周りの人間の襟を正すような空気感は、まるで監督の作品そのものだった。

ぜひ、誰かが、達人ワイズマン監督が撮影をしている舞台裏の様子も、
映画として撮ってもらえないだろうかと強く思っている。

 

クレイジーホース

クレイジーホースポスター

■クレイジーホース・ パリ 夜の宝石たち Crazy Horse

<スタッフ&キャスト>
監督:フレデリック・ワイズマン
公開:日本 2012年6月30日
上映時間:134分

 

 

 

 

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安部邦治 (kuniharu abe)
webマガジン『tram』編集長。都電が大好きでNY留学中に制作した映画「Response」は、都電の映画。公益財団 川喜多記念映画文化財団で勤務の後、現在は某ストックフォト会社の海外アーカイブ担当。趣味は囲碁、登山、週末を利用したパワースポット巡り。
安部邦治 (kuniharu abe)

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